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#052 福岡高裁辺野古訴訟判決

 #2 判決要旨

2016.9.18

【判決要旨】

 

第1 事案の概要

 

 国(沖縄防衛局)が、普天間飛行場代替施設(本件新施設等)を辺野古沿岸域に建設するため、2013年12月27日、被告(沖縄県知事翁長雄志)の前任者である沖縄県知事から公有水面埋め立ての承認(本件承認処分)を受けていたが、翁長知事が、15年10月13日、承認処分の取り消し(本件取消処分)をした。

 国は、本件取消処分は、公有水面埋立法(以下、「法」という)に反して違法として、地方自治法245条の7第1項に基づき、本件取消処分の取り消しを求める是正の指示(本件指示)をしたが、知事が、本件指示に基づいて本件取消処分を取り消さない上、法定の期間内に是正の指示の取消訴訟(同法251条の5)をも提起しないことから、同法251条の7に基づき、知事に対し、同不作為の違法の確認を求めた。

第2 当裁判所の判断

1 取消権の発生要件(審理対象)およびその判断方法について

 行政処分に対し、原処分庁が職権で行ういわゆる自庁取り消しが認められる根拠は、法律による行政の原理ないし法治主義に求められる。

 その要件は原処分が違法であることだ。原処分に要件裁量権が認められる場合には、原処分の裁量権の行使が逸脱・乱用にわたり違法であると認められることを要する。従って、この点が本件の審理対象である。

 知事は、「本件取消処分において行った本件承認処分に違法があるとの判断に、要件裁量権がある」と主張する。

 そうだとすると、「裁量がないとして判断しても、法的・客観的に適法である原処分に対する知事の再審査の判断が、裁量の範囲内においてだがこれを誤って違法と判断したものだとしても、有効に取り消せる」という不条理を招くことになるなど採用できない。

 また、知事は、地方自治権・自治体裁量権を根拠に司法審査が制限される旨主張する。

 地方分権推進法ならびに地方自治法1999年および2012年改正は、国と地方の利害が対立し法解釈に関する意見が異なる場合に、それぞれが独立の機関として対立が続けば、行政が服すべき法的適合性原則に反する状態が解消できず、国地方の関係が不安定化、ひいては地方分権の流れが逆流し、国の権限を強化すべきであるとの動きが起こることを懸念して、その解決方法を設けた。

 そこでも透明で割り切れたシステムにするという観点から、国の関与の手続きを明確に規定した。その手続きの中で解決がつかない場合は、第三者であり中立的で公平な判断が期待でき、かつ透明で安定した手続きを有する裁判所に判断させることとしたものである。

 したがって、裁判所としては、是正の要求や指示がされ地方公共団体がそれに従わないことから地方自治法所定の訴えが提起された場合は、所定の手続きに沿って速やかに中立的で公平な審理・判断をすべき責務を負わされており、それを全うすることこそが地方自治法改正の趣旨にかなうゆえんである。

 また、不作為の違法確認訴訟は、その制度検討過程において、地方公共団体が不作為の違法を確認する判決を受けてもそれに従わないのではないか、そうなれば制度が無意味になるだけでなく、裁判所の権威まで失墜させることになり、ひいては日本の国全体に大きなダメージを与えてしまうとの懸念が表明されるほどマイルドな訴訟形態であることなどからしても、知事の主張は理由がない。

2 「第1号要件審査の対象に国防・外交上の事項が含まれるか」について

 第1号要件(国土利用の合理性)は、当該埋め立ての必要性および公共性の高さを、埋め立てに伴う種々の環境変化と比較するものだ。埋め立てに係る事業の性質や内容を審査することは不可欠で、そのことは、それが国防・外交に関わるものでも何ら変わりはない。「知事の審査権は、国防・外交に係る事項に及ぶもの」と解するのが相当だ。

 ただし、国防・外交に関する事項は、本来、地方公共団体が所管する事項ではなく、地域の利益に関わる限りにおいて審査権限を有するにすぎない。

 そして、地方公共団体には、国防・外交に関する事項を国全体の安全や、国としての国際社会における地位がいかにあるべきかという面から判断する権限も、判断しうる組織体制も、責任を負いうる立場も有しない。

 それにもかかわらず、本来、知事に審査権限を付与した趣旨とは異なり、「地域特有の利害ではない米軍基地の必要性が乏しい、また住民の総意だ」として、都道府県全ての知事が埋立承認を拒否した場合、国防・外交に本来的権限と責任を負うべき立場にある国の不合理とはいえない判断が覆されてしまう。国の本来的事務について、地方公共団体の判断が国の判断に優越することにもなりかねない。

 これは、地方自治法が定める国と地方の役割分担の原則にも沿わない不都合な事態だ。よって、国の説明する国防・外交上の必要性について、具体的な点において不合理と認められない限りは、知事はその判断を尊重すべきである。

3 「本件承認処分の第1号要件欠如の有無」について

 (1) 第1号要件は、埋め立て自体および埋め立て地の用途が国土利用上の観点から、適正かつ合理的なものであることを要するとする趣旨と解される。

 承認権者がこれに該当するか否かを判断するに当たっては、国土利用上の観点からの当該埋め立ての必要性および公共性の高さと、当該埋め立て自体および埋め立て後の土地利用が、周囲の自然環境ないし生活環境に及ぼす影響などと比較衡量した上で、地域の実情などを踏まえ、総合的に判断することになる。

 これらさまざまな一般公益の取捨選択あるいは軽重の判断は高度の政策的判断に属するとともに、専門技術的な判断も含まれる。承認権者である都道府県知事には広範な裁量が認められると解される。

 本件承認処分の第1号要件の審査が違法となるのは、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により、重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、または、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によって、その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱しまたはこれを乱用したとして違法となる。

 (2) ア 沖縄の地理的優位性について

 沖縄と潜在的紛争地域とされる朝鮮半島や台湾海峡との距離は、ソウルまでが約1260キロメートル、船舶での移動時間が約34時間、オスプレイの固定翼モードの速度時速230マイル(368キロメートル)で約3・5時間となる。台北までが約630キロメートル、船舶での移動時間が約17時間、オスプレイで約2時間となる。

 他方、北朝鮮が保有する弾道ミサイルのうち、ノドンの射程外となるのはわが国では沖縄などごく一部であり、南西諸島は、わが国の海上輸送交通路に沿う位置にあって、沖縄本島はその中央にある。

 これに対し、グアムからは、ソウルまでが約3220キロメートル、台北までが約2760キロメートル、沖縄までおよそ2200キロメートルであること等に照らして、沖縄に地理的優位性が認められるとの国の説明は不合理ではない。

 イ 海兵隊の一体的運用について

 知事は、普天間飛行場に配備された航空機部隊は、強襲揚陸艦に搭載され、艦船からの輸送および強襲揚陸に対する支援を行うことを任務とし、揚陸艦の母港は長崎県佐世保基地なので、沖縄から海兵隊が展開するには佐世保基地から回航した揚陸艦が沖縄に到着するのを待たなければならないとして、「沖縄から海兵隊航空基地を移設しても海兵隊の機動力・即応力が失われることはない」旨指摘する。

 在沖縄米軍の中でも、海兵隊は武力紛争から自然災害まで種々の緊急事態に迅速に対応する初動対応部隊として、他の軍種が果たせない重要な役割を持っている。強襲揚陸作戦ばかりでなく、海上阻止行動、対テロ作戦や安定化作戦、平時における人道支援·災害救助、敵地における偵察・監視、人質の奪還等の特殊作戦や危機発生時の民間人救出活動も任務としている。

 これらの場合には、在沖縄海兵隊独自の活動として、強襲揚陸艦とは別に行うことも想定していることから、知事の上記指摘はその前提において、海兵隊の持つ一部の任務に該当しうるにすぎない。その余の重要な任務については、海兵隊航空基地を沖縄本島から移設すれば、海兵隊の機動力・即応力が失われることになるから採用できない。

 ウ 普天間飛行場の返還と本件新施設等との関係について

 本件新施設等は、普天間飛行場の半分以下の面積で、その設置予定地はキャンプ・シュワブの米軍使用区域内なので、全体としては沖縄の負担は軽減される。

 また、1996年に日米間でされた普天間飛行場の返還合意は、沖縄県内の米軍施設および区域内に新たにヘリポートを建設することが前提とされている。これが満たされなければ、返還合意自体が履行されない関係にある。かつ、普天間飛行場が返還されるまでは、本件新施設等が米軍基地として使用されるわけではない。

 前者と後者は、二者択一の関係にあること、その間に上記合意に基づく本件新施設等による一部機能の代替以外の方法で普天間飛行場が返還される可能性、すなわち、前記のとおり、一体的運用が必要とされる以上、海兵隊全体が沖縄に駐留する必要性が失われるか、本島近辺に他の代替地を確保する必要性があるが、その可能性があるとは考えにくい。本件新施設等が設置されなければ、普天間飛行場が返還されない蓋然(がいぜん)性が有意に認められる。

 そうなると、計画されている普天間飛行場跡地利用による沖縄県全体の振興や多大な経済的効果も得られない。

 他方、仮に将来、海兵隊全体が沖縄に駐留する必要がなくなるとすれば、そのときは、本件新施設等もキャンプ・シュワブも必要がなくなり、返還されることになるはずだ。

 エ 普天間飛行場による騒音被害や危険性の原因と対策について

 知事は、普天間飛行場による騒音被害や危険性は、1996年および2012年に日米安全保障協議委員会で合意された航空機騒音規制措置という日米両国間の地位協定に関わる合意事項が遵守されていないことにより深刻化しているので、これを遵守させることで、それ(騒音被害や危険性)を防止できると主張する。

 しかし、同規制措置は、全て「できる限り」とか「運用上必要な場合を除き」などの限定が付されている。そもそも、これが遵守されていないとの確認は困難だから、知事の主張はその前提を欠いている。

 しかも、規制措置の内容を見ても、それによって普天間飛行場による騒音被害や危険性が軽減できる程度は小さい。これらは、周囲を住宅密集地に囲まれた普天間飛行場に海兵隊の航空部隊が駐留すること自体によって発生していることが明らかなので、普天間飛行場から海兵隊の航空部隊が他に移転すること以外に除去する方法はない。

 オ 以上要するに、(1)普天間飛行場の騒音被害や危険性、これによる地域振興の阻害は深刻な状況であり、普天間飛行場の閉鎖という方法で改善される必要がある。

 しかし、(2)海兵隊の航空部隊を地上部隊から切り離して県外に移転することはできないと認められる。

 (3)在沖縄全海兵隊を県外に移転することができないという国の判断は、戦後70年の経過や現在の世界、地域情勢から合理性があり尊重すべきである。

 (4)そうすると、県内に普天間飛行場の代替施設が必要である。

 その候補として本件新施設等が挙げられるが、他に県内の移転先は見当たらない。

 よって、(56)普天間飛行場の被害を除去するには本件新施設等を建設する以外にはない。言い換えると本件新施設等の建設をやめるには普天間飛行場による被害を継続するしかない。

 (3) 結論

 以上によれば、本件埋立事業の必要性(普天間飛行場の危険性の除去)が極めて高く、それに伴う環境悪化等の不利益を考慮したとしても、第1号要件該当性を肯定できるとする判断が不合理と認めることはできない。

4 「第2号要件審査に埋め立て地の竣工後の利用形態を含むのか及び本件承認処分の第2号要件欠如の有無」について

 (1) 第2号要件(環境保全)は、埋め立て地の竣工(しゅんこう)後の利用形態ではなく、埋立行為そのものに随伴して必要となる環境保全措置等を審査するものと解するのが相当だ。

 (2) 第2号要件の審査は、専門技術的知見を尊重して行う都道府県知事の合理的な判断に委ねられているといえる。

 このような都道府県知事の判断の適否を裁判所が審査するに当たっては、当該判断に不合理な点があるか否かという観点から行うべきだ。

 具体的には、現在の環境技術水準に照らし、

 (1)審査において用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか

 (2)本件埋立出願が当該具体的審査基準に適合するとした前知事の審査過程に看過しがたい過誤、欠落があるか否か-を審査する。

 上記具体的審査基準に不合理な点がある、あるいは、本件埋立出願が上記具体的審査基準に適合するとした前知事の審査の過程に看過しがたい過誤、欠落がある場合には、前知事の判断に不合理な点があるとして、本件承認処分は違法だと解すべきだ。

 環境保全対策のための調査、予測および評価の方法について、同等程度の成果が得られるなら、効率的な手法で行うべきことは、そうでなければ長期間事業目的を達成できないこと、多額の費用が国民の負担に帰することからも明らかだ。

 このようなことからすると、第2号要件の審査時点では、現在の知見をもとに実行可能な範囲において、環境の現況および環境への影響を的確に把握した上で、これに対する措置が適正に講じられることで足る。

 上記不確実性に対応するには、承認後に引き続き事後調査や環境監視調査をし、その場その時の状況に応じて、専門家の助言・指導に基づき柔軟に対策を講じることは、むしろ合理的だ。

 以上のような点等に照らすと、本件審査基準に不合理な点があるといえない。かつ、本件埋立出願が本件審査基準に適合するとした前知事の判断に不合理な点があるといえない。

 

5 「本件承認処分が法4条1項1号および同項2号の要件が欠如している場合に取消制限の法理の適用によって本件取消処分は違法と言えるか」について

 (1) 「瑕疵(かし)のある処分をしてしまったことによって生じた法律関係や、事実状態を保護する必要がある」との法的安定性の確保が取消制限の根拠だ。加えて、授益的処分の取り消しは、申請者の既得権や信頼を保護するという観点も加わる。「これを取り消すべき公益上の必要があること、それと取り消すことによる不利益とを比較して、前者が明らかに優越していることが必要だ」と解される。

 公有水面の埋立事業は、多大な費用と労力を要し、さまざまな法律・利害関係が積み重なっていく性質を有する。一度、行った法4条の免許を、取り消し得る場合について、法も「詐欺の手段をもって埋立免許を受けたとき」と定めるなど、取消権の行使を制限する趣旨の規定を設けていること等からすると、公有水面の埋立承認処分に対する取消権行使は法的安定性の確保のためより制限されるべきものと解される。

 (2) 本件承認処分に瑕疵があるとしても、その瑕疵の性質は、裁量の範囲内の不当である。すなわち、考慮すべき事情をいずれも考慮した上で、その利害調整において優劣の判断を誤ったというにすぎない。その不当性も事情評価の軽度な誤りで、瑕疵の存否が一見して明らかなものではない。その意味では、瑕疵のある処分が存続することで、取消権の根拠である法律による行政の原理が損なわれる程度は小さい。

 取り消すことによる不利益は、日米間の信頼関係の破壊、国際社会からの信頼喪失、本件埋立事業に費やした経費、第三者への影響がある。

 取り消すべき公益上の必要としては、自然海浜を保護する必要等があげられるが、他方、本件埋立事業を行う必要性(普天間飛行場の危険性の除去)自体は肯定できる。前者が後者に程度において勝ったというにすぎず、その分、取り消すべき公益上の必要が減殺される。

 知事は、本件取消処分をしないことによって、沖縄県の自治が侵害され、さらに、沖縄県民の民意に反し、地域振興開発の阻害要因を作出する旨主張する。

 しかし、本件埋立事業による普天間飛行場の移転は沖縄県の基地負担軽減に資するものだ。そうである以上、本件新施設等の建設に反対する民意には沿わないとしても、普天間飛行場その他の基地負担の軽減を求める民意に反するとはいえない。

 また、本件埋立事業によって設置される予定の本件新施設等は、普天間飛行場の施設の半分以下の面積で、その設置予定地はキャンプ・シュワブの米軍使用水域内であることからすれば、本件埋立事業が知事の主張する地域振興開発の阻害要因とはいえない。

 (3) 結論

 そうすると、そもそも取り消すべき公益上の必要が、取り消すことによる不利益に比べて明らかに優越しているとまでは認められず、本件承認処分の取り消しは許されない。

6 「法令の規定に違反する場合」(地方自治法245条の7第1項)の意義および原告が行える是正の指示(同条項)の範囲」について

 (1) 「法令の規定に違反する場合」(地方自治法245条の7第1項)の意義について

 知事は、その違法が全国的な統一性、広域的な調整等の必要という観点から、看過しがたいことが明らかである場合をいうと主張する。その根拠とする「一定の行政目的を実現するため」とは、是正の指示(同法245条1号へ)とは異なる。地方自治法が、国に対し、できる限り地方公共団体に対して行うことのないよう求めている、いわゆる非定型的関与に関する規定である。

 知事の主張は、地方自治法上、是正の指示とは明確に区別して、その利用を制限すべきものとされた非定型的関与の規定を、是正の指示にも適用すべきであるという失当なものであることが明白だ。

 (2) 国が行える是正の指示の範囲について

 知事は、国土交通大臣の所掌事務である「国土の総合的かつ体系的な利用、開発および保全」(国土交通省設置法3条1項)の範囲に限られ、かつ、法の目的の範囲内に限られ、本件指示理由は、国土交通大臣の所掌している事務でなく、かつ、法の目的ではない、外交および防衛なので、本件指示は国土交通大臣の権限を逸脱するとして、違法である旨主張する。

 しかし、そもそも、是正の要求の要件が「各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき」(地方自治法245条の5第1項)と規定しているのに対比し、是正の指示の要件は、「各大臣は、その所管する法律、またはこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき」(同法245条の7第1項)と定めている。

 これは、法定受託事務に関する是正の指示については、自治事務に関する是正の要求よりも広く、都道府県が処理する法定受託事務に係る法令を所管する大臣であることだけが要件とされている。自らの担任する事務に関わるか否かに関係なく、法定受託事務の処理が違法であれば、是正の指示の発動が許される趣旨と解される。よって、この点において知事の主張に理由がないことは明らかだ。

 

7 「本件新施設等建設の法律上の根拠および自治権の侵害の有無」について

 (1) 本件新施設等建設の法律上の根拠について

 本件新施設等は、日米安全保障条約および日米地位協定に基づくもので、憲法41条に違反するとはいえない。さらに、本件新施設等が設置されるのは、キャンプ・シュワブの使用水域内に本件埋立事業によって作り出される本件埋め立て地だ。その規模は、普天間飛行場の施設の半分以下の面積で、かつ、普天間飛行場が返還されることに照らせば、本件新施設等建設が自治権侵害として、憲法92条に反するとはいえない。

 (2) 自治権の侵害の有無について

 地方自治法および法により許容される限度の国の関与が、当然に憲法92条に違反するとはいえない。

 本件指示が地方自治法および法により許容され、本件新施設等についての沖縄の地理的必然性がないとはいえない。

 加えて、本件新施設等が設置されるのはキャンプ・シュワブの使用水域内に本件埋立事業によって作り出される本件埋め立て地で、その規模は、普天間飛行場の施設の半分以下の面積だ。

 かつ、普天間飛行場が返還されることに照らせば、沖縄県の自治権制限・米軍による環境破壊や事件事故等により、本件指示が憲法92条に違反するとはいえない。

 

8 「知事が本件指示に従わないことは違法と言えるか」について

 (1) 相当の期間の経過について

 法定受託事務に関する是正の指示がなされた場合は、地方公共団体はそれに従う法的義務を負う。

 それに係る措置を講じるのに必要と認められる期間、すなわち、相当の期間を経過した後は、それをしない不作為は違法となる。地方公共団体からする審査申し出期間、審査期間および出訴期間は国の提訴を制限する期間である。

 相当期間がいつまでであるかについて、本件では、従前の代執行訴訟と主たる争点が共通することになることに鑑みると、遅くとも本件指示についての国地方係争処理委員会の決定が通知された時点では、是正の指示の適法性を検討するのに要する期間は経過したというべきだ。

 その後に、本件取消決定を取り消す措置を行うのに要する期間は、長くとも1週間程度と認められる。本件訴えが提起された時点では、相当期間を経過していることは明らかだ。

 知事が本件指示に従わないことは、不作為の違法に当たると言える。

 (2) 不作為の違法の意義について

 知事は、地方公共団体の長に国地方係争処理委員会への審査申し出や、その後の訴え提起の途が開かれているにもかかわらず、それぞれ相応の一定期間を経過してもそうした対応をしないなどの一連の経過に照らし、地方公共団体の長の対応に、故意または看過しがたい瑕疵が認められて初めて不作為の違法が認定できると解すべきであると指摘する。

 重要案件について、いずれが正しいにせよ、国と地方公共団体の対立で、違法状態が長く続くことは好ましくなく、迅速に処理すべきとされたこと等に照らし、国地方係争処理委員会の手続きを経ても是正の指示が撤回されるなど、知事の不作為が違法である状態が解消されなかった以上、知事が、前記のとおり、最終的な解決手段として用意された訴え提起を行うことで、自らの違法状態を解消することが地方自治法の趣旨に沿うものだ。

 さらに、知事は、「国地方係争処理委員会の本件指示の適法性について判断せずに協議すべきだとの決定を尊重して、国の関与の取消訴訟を提起しなかったので、知事の不作為が違法とはならない」と主張する。

 しかし、本件指示の適法性について判断しなかったことについて、国地方係争処理委員会は、行政内部における地方公共団体のための簡易迅速な救済手続きであり、その勧告にも拘束力が認められていない。

 是正の指示の適法性を判断しても、双方共にそれに従う意思がないのであれば、それを判断しても紛争を解決できない立場だ。

 また、国や地方公共団体に対し、訴訟によらずに協議により解決するよう求める決定をする権限はない。もちろん国や地方公共団体にそれに従う義務もない。

 代執行訴訟での和解では、国地方係争処理委員会の決定が、知事に有利であろうと不利であろうと、知事が本件指示の取消訴訟を提起し、両者間の協議はこれと並行して行うものとされた。

 国地方係争処理委員会の決定は、和解において具体的には想定しない内容であったとはいえ、もともと和解において決定内容には意味がないものとしている。

 実際の決定内容も、少なくとも是正の指示の効力が維持されるというものに他ならないのだから、知事は本件指示の取消訴訟を提起すべきであった。

 それをしないために、国が提起することとなった本件訴訟にも同和解の効力が及び、協議はこれと並行して行うべきものと解するのが相当である。

 なお、同和解は代執行訴訟で、知事が不作為の違法確認訴訟の確定判決に従うと表明したことが前提とされている。知事は、本件においても、その確定判決に従う旨を述べており、知事にも国にも錯誤はなく、同和解は有効に成立した。

 本件のように、それ自体極めて重大な案件で、しかも、国にとって防衛・外交上、県にとって、歴史的経緯を含めた基地問題という双方の意見が真っ向から対立して一歩も引かない問題に対しては、互譲の精神により双方にとって多少なりともましな解決策を合意することが、本来は対等·協力の関係という地方自治法の精神から望ましいとは考える。

 だが、知事本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、前の和解成立から約5カ月が経過しても、その糸口すら見いだせない現状にあるから、その可能性を肯定することは困難だ。

 そうすると、前記のとおり、1999年および2012年の地方自治法の改正の経緯から、本件訴訟に対して所定の手続きに沿って、速やかに中立的で公平な審理・判断をすべき責務を負わされている裁判所としては、その責務を果たすほかないと思料(しりょう)するものである。

以上

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