top of page

Historical Archives

#051 辺野古訴訟福岡高裁判決

 #1 報道記事・社説

 2016.9.18

 辺野古訴訟で福岡高裁那覇支部が国側勝訴の判決を下したことにつき、これに関する報道記事、新聞各社の社説を掲載します。

 判決要旨及び詳細な判決文全文は、別途アップします。

 

 なお、この判決を出した多見谷寿郎裁判長は平成22年4月から同26年3月まで千葉地裁の裁判長を務め、行政(およびそれに準ずる組織)が当事者となった裁判を数多く手がけ、うち9割がた行政を勝たせているということです。

 また、代執行訴訟が提起されるわずか18日前に、東京地裁立川支部の部総括判事(通常3年の在任期間がわずか1年2カ月)から慌ただしく福岡高裁那覇支部長に異動しており、前任の須田啓之氏もわずか1年で那覇支部長から宮崎地家裁の所長に転じたということです。

 この裁判で、多見谷裁判長は、稲嶺進名護市長ら8人の証人申請を却下、また国側が早期結審を求めたのに応え、わずか2回の弁論で結審するスピード審理を強行したようです。

 

【記事】

◉ 朝日新聞 2016年9月17日

辺野古訴訟、国が勝訴 知事の承認取り消し、高裁認めず

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画をめぐり、埋め立ての承認を取り消した沖縄県の翁長(おなが)雄志(たけし)知事を国が訴えた訴訟で、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)は16日、国の主張を認め、翁長知事が承認取り消しの撤回に応じないのは違法だとする判決を言い渡した。「普天間の危険を除去するには埋め立てを行うしかなく、これにより基地負担が軽減される」との判断を示した。

辺野古をめぐる国と県の一連の争いで、司法判断が示されたのは初めて。翁長知事は最高裁に上告する方針で、埋め立て工事は引き続き再開できない見通し。

 判決は、知事による埋め立て承認の審査権限について、国の計画が不合理でなければ、知事は尊重すべきだとした。

 そのうえで、「海兵隊の航空部隊を地上部隊から切り離して県外に移転することはできない」などとした国の主張をほぼ全面的に採用。「普天間飛行場の被害を除去するには新施設(辺野古の代替施設)を建設する以外にはない」などと指摘し、2013年12月に仲井真弘多(ひろかず)前知事が埋め立てを承認したことは「不合理とは言えない」とした。

 一方、翁長知事が埋め立て承認を取り消したことについては「日米間の信頼関係の破壊」といったデメリットを挙げ、「移転は沖縄県の基地負担軽減に資するもので、民意に反するとは言えない」とし、取り消すことによる利益が不利益を大きく上回っていないなどとして「違法だ」と指摘。翁長知事が国の是正指示に従わない不作為について違法と認定した。

 判決を受け、菅義偉官房長官は16日午後の会見で「国の主張が認められたことは歓迎したい」と述べた。一方、翁長知事は会見で「地方自治制度を軽視し、沖縄県民の気持ちを踏みにじる、あまりにも国に偏った判断だ。裁判所には法の番人としての役割を期待していたが、政府の追認機関であることが明らかになり、大変失望した」と述べた。

 

(続報)

◉ 琉球新報 2016年9月23日

辺野古訴訟で県が上告 年度内には確定判決

 翁長雄志知事による名護市辺野古の埋め立て承認取り消しを巡り、国が県を相手に提起した不作為の違法確認訴訟で、県は23日午後1時半ごろ、承認取り消しを違法だとした福岡高裁那覇支部判決を不服として上告した。最高裁が上告理由を認めて審理に入れば、年度内には確定判決が出る見通し。

 県の上告理由書などの提出期限は10月3日に設定される。

 最高裁で県が勝訴した場合、県は承認取り消しを取り消すよう求めた国の「是正の指示」に従う必要はなくなり、承認取り消しの効力はそのまま維持される。県が敗訴した場合、県は是正の指示に従って、承認取り消しを取り消すことになる。

 一方、敗訴して埋め立て承認の効力が復活した場合でも、「あらゆる手法」で辺野古新基地建設を阻止する姿勢は変わらないとしており、移設問題の行方は不透明だ。

 

【社説】

◉ 朝日新聞 2016年9月17日

辺野古判決 それでも対話しかない

 国の主張が全面的に認められた判決だ。だからといって、政府が沖縄の不信を解く努力を怠れば、問題解決には決してつながらない。

 米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐり、国と県が争った裁判で、福岡高裁那覇支部は国側勝訴の判決を言い渡した。

 「普天間の被害を除去するには辺野古に基地を建設する以外にない」と言い切ったことに、大きな疑問を感じる。

 長い議論の歴史があり、国内外の専門家の間でも見解が分かれる、微妙で複雑な問題だ。だが、この訴訟で裁判所が直接話を聞いたのは翁長雄志知事ひとりだけ。それ以外の証人申請をことごとく退け、法廷を2回開いただけで打ち切った。

 そんな審理で、なぜここまで踏みこんだ判断ができるのか。しなければならないのか。結論の当否はともかく、裁判のあり方は議論を呼ぶだろう。

 国と県はこの春以降、話しあいの期間をもった。だが実質的な中身に入らないまま、参院選が終わるやいなや、国はこの裁判を起こした。

 判決は「互譲の精神」の大切さを説き、「国と県は本来、対等・協力の関係」と指摘しながらも、結果として国の強硬姿勢を支持したことになる。

 辺野古移設にNOという沖縄の民意は、たび重なる選挙結果で示されている。

 翁長知事は判決後の会見で、最高裁の確定判決が出れば従う姿勢を明確にする一方、「私自身は辺野古新基地を絶対に造らせないという思いをもってこれからも頑張りたい」と語った。

 国が埋め立て計画の変更申請を出した際など、様々な知事権限を使って抵抗する考えだ。

 一日も早く普天間の危険をなくしたい。その願いは政府も県も同じはずだ。対立ではなく、対話のなかで合意点を見いだす努力を重ねることこそ、問題解決の近道である。

 だが参院選後、政府による沖縄への一連の強腰の姿勢に、県民の不信は募っている。

 大量の機動隊員に守らせて東村高江の米軍ヘリパッド移設工事に着手し、工事車両を運ぶため自衛隊ヘリを投入した。来年度予算案の概算要求では、菅官房長官らが基地問題と沖縄振興のリンク論を持ち出した。

 政府が直視すべきは、県民の理解がなければ辺野古移設は困難だし、基地の安定的な運用は望み得ないという現実だ。

 県民の思いと真摯(しんし)に向き合う努力を欠いたまま、かたくなな姿勢を続けるようなら、打開の道はますます遠のく。

◉ 読売新聞 2016年09月17日

「辺野古」国勝訴 翁長知事の違法が認定された

 米軍普天間飛行場の移設問題の経緯や在日米軍駐留の重要性などを踏まえた、妥当な判決だ。

 普天間飛行場の辺野古移設を巡り、福岡高裁那覇支部は、沖縄県の翁長雄志知事が移設先の埋め立て承認の取り消し処分を撤回しないのは「違法」と認定した。

 判決は、辺野古移設について、普天間飛行場の騒音被害や危険性を除去する観点から、「必要性が極めて高い」と指摘した。

 さらに、環境悪化などの不利益や、基地の縮小を求める沖縄の民意を考慮しても、仲井真弘多前知事の埋め立て承認の取り消しは許されない、と判断した。政府の主張を全面的に認めたものだ。

 司法が移設の必要性や公共性を認め、後押しした意義は大きい。翁長氏は、判決内容を重く受け止めなければならない。

 今年3月の政府と県の和解は、総務省の第三者機関の判断を踏まえて県が提訴する、と定めた。だが、県が見送ったため、政府が7月に提訴した。判決は、県の提訴見送りにも疑問を呈した。

 評価できるのは、翁長氏支持派による在沖縄海兵隊の撤退要求を判決が明確に否定したことだ。

 判決は、海兵隊について「沖縄から移設されれば、機動力・即応力が失われる」と指摘した。沖縄県外への移転が困難とする政府の判断は「現在の世界、地域情勢から合理性がある」とした。

 辺野古移設は、普天間飛行場の移設が難航する中、日米両政府と地元関係者がぎりぎりの折衝を重ねた末、「唯一の解決策」として決定したものだ。こうした経緯に判決は理解を示したと言える。

 判決は、外交・国防は自治体が「本来所管する事項ではない」と指摘した。自治体が「国全体の安全という面から判断する権限、組織体制、立場を有しない」ことを理由に挙げている。

 1999年制定の地方分権一括法で、政府と自治体は「対等」と位置づけられたが、外交・国防は政府の専管事項であることを改めて明確にしたのは適切である。

 翁長氏は、判決について「沖縄県民の気持ちを踏みにじる、あまりにも国に偏った判断だ」と語った。近く上告するという。最高裁にも現実的な判断を求めたい。

 懸念されるのは、翁長氏が、仮に敗訴が確定しても、移設阻止の動きを続けると公言していることだ。和解では、「判決確定後は、趣旨に沿って互いに協力して誠実に対応する」ことで合意した。翁長氏は合意を尊重すべきだ。

 

◉ 毎日新聞 2016年09月17日

辺野古で国勝訴 解決には対話しかない

 沖縄県・米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐる国と県の対立は、最終的に裁判で決着させるのは難しく、話し合いで解決するしかない。

 翁長雄志(おながたけし)知事が辺野古の埋め立て承認を取り消した処分を撤回しないのは違法だとして、国が知事を訴えた違法確認訴訟で、福岡高裁那覇支部は、国の主張を全面的に認める判決を言い渡した。

 判決は「普天間の被害を除去するには辺野古以外にない」と断定した。「県外移設はできない」という国の判断について「戦後70年の経過や現在の世界、地域情勢から合理性があり尊重すべきだ」とした。

 沖縄県は上告する方針だ。翁長氏は判決について「地方自治制度を軽視し、県民の気持ちを踏みにじる、あまりにも国に偏った判断」と批判し、あらゆる手段を使って辺野古移設を阻止する考えを示した。

 この先、最高裁がどういう判断をするかは見通せない。ただ、最高裁で国の勝訴が確定したとしても、知事の権限は大きく、翁長氏にはいくつかの対抗手段がある。

 例えば、埋め立て承認の「取り消し」ではなく、改めて承認を「撤回」する可能性が指摘されている。

 取り消しが、承認時の手続き上の瑕疵(かし)を理由にした処分なのに対し、撤回は承認後の状況の変化を理由にした処分だ。

 また、移設計画の変更が必要になった場合、国は改めて知事の承認を得る必要がある。知事が承認しなければ計画は進まなくなる。

 福岡高裁那覇支部の多見谷寿郎裁判長は、以前の国と県との代執行訴訟でも裁判長を務めた。その時の和解勧告は、国が勝っても「延々と法廷闘争が続く可能性がある」として、国と県が話し合って最善の解決策を見いだすのが本来あるべき姿だと指摘していた。

 今回の判決文でも、国と県の対立について「互譲の精神により解決策を合意することが対等・協力の関係という地方自治法の精神から望ましい」としている。そのうえで「その糸口すら見いだせない」と話し合い解決の可能性に否定的な見方を示し、判決を出したのだと説明した。

 自民党の二階俊博幹事長は先日、翁長氏と会談した際、戦後日本の安全保障を支えた沖縄の歴史に触れたという。翁長氏は「そういう言葉から始まることが首相官邸ではなかった。大きな壁をつくりながら話をするのか、耳を傾けて話をするのか全然違う」と、沖縄に冷淡な官邸の姿勢を批判した。

 政府は沖縄と形だけの協議はしても、真剣に議論しようという態度に欠けていたのではないか。対話による解決にもっと努力すべきだ。

 

◉ 日本経済新聞 2016年09月17日

「北風」で普天間移設できるか

 米軍普天間基地の沖縄県名護市辺野古への移設をめぐる国と県の争いに初の司法判断が下った。ただ、敗訴した県は最高裁に上告する方針で、決着にはなお時間がかかる。国は最高裁でも勝つに決まっているとたかをくくらず、県との歩み寄りに努めるべきだ。

 辺野古移設に必要な公有水面の埋め立ては知事に諾否を決める権限がある。仲井真弘多前知事は承認したが、翁長雄志現知事は取り消した。福岡高裁那覇支部は知事の取り消しを取り消せという国の主張は妥当だと判断した。

 判決は、国防・外交上の事項は「国の本来的任務」であり、「尊重されるべきだ」と指摘した。同時に普天間基地の県内移設によって「基地負担が軽減される」として「承認を取り消すべき公益上の必要が優越しているとはいえない」と強調した。

 国の言い分をそのまま認めた形であり、最高裁もこれを踏襲する可能性が高い。問題は、司法判断が確定したとしても、それで移設がすんなり進むとは言い切れないところにある。

 沖縄ではこのところ国政選で移設反対の候補が勝ち続けている。この民意を追い風に翁長知事はあらゆる権限を駆使して移設工事を妨げる考えだ。

 他方、安倍政権は2017年度予算案の概算要求で沖縄関連予算を減らした。「毎年使い切れていない」と説明するが、減額すれば兵糧攻めと受け取られることはわかっているはずだ。

 双方の対立は移設の是非はどこへやら、もはや感情論の域に達している。本土は沖縄のことをないがしろにしている。県民がそう考え続ける限り、打開の糸口は見いだせない。

 政治的困難を解決するには北風を吹かせるだけでなく、太陽も必要だ。自民党の二階俊博幹事長が訪沖し、翁長知事に「難しいことはたくさんあるが乗り越えたい」と伝えたそうだ。こうした信頼関係づくりは重要だ。政府がどう動くのかに注目したい。

 

◉ 産経新聞

 

 社説で採り上げず

 

◉ 琉球新報 2016年09月17日

辺野古訴訟県敗訴 地方分権に逆行 知事は阻止策を尽くせ

 前知事の名護市辺野古海域の埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事の処分を違法とする判決が、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)で下された。辺野古新基地に反対する県民世論を踏みにじり、新基地建設で損なわれる県益を守る地方自治の知事権限を否定する判決であり、承服できない。

 米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡る初の司法判断である。しかし国の主張をそのままなぞったような内容で、三権分立の原則を逸脱した判決と言わざるを得ない。翁長知事は上告審での反論とともに、知事権限を駆使して新基地建設への反対を貫いてもらいたい。

環境保全策を軽視

 判決には大きな疑問点が二つある。まず公有水面埋め立ての環境保全措置を極めて緩やかに判断している点だ。

 判決は「現在の環境技術水準に照らし不合理な点があるか」という観点で、「審査基準に適合するとした前知事の判断に不合理はない」と軽々しく片づけている。

 果たしてそうだろうか。専門家は公有水面埋立法について「環境保全が十分配慮されない事業には免許を与えてはならない」と指摘している。埋め立てを承認した前知事ですら、環境影響評価書について県内部の検討を踏まえ、「生活環境、自然環境の保全は不可能」と明言していた。

 大量の土砂投入は海域の自然を決定的に破壊する。保全不能な保全策は、保全の名に値しない。

 辺野古周辺海域はジュゴンやアオサンゴなど絶滅が危惧される多様な生物種が生息する。県の環境保全指針で「自然環境の厳正なる保護を図る区域」に指定され、世界自然遺産に値する海域として国際自然保護連合(IUCN)が、日本政府に対し4度にわたり環境保全を勧告している。

 判決は公有水面埋立法の理念に反し、海域の保全を求める国際世論にも背を向けるものと断じざるを得ない。

 判決はまた、「普天間飛行場の被害をなくすには同飛行場を閉鎖する必要がある」、だが「海兵隊を海外に移転することは困難とする国の判断を尊重する必要がある」「県内ほかの移転先が見当たらない以上、本件新施設を建設するしかない」という論法で辺野古新基地建設を合理的とする判断を示した。

 普天間飛行場の移設先を「沖縄の地理的優位性」を根拠に「辺野古が唯一」とする国の主張通りの判断であり、米国、米軍関係者の中にも「地理的優位性」を否定する見解があるとする翁長知事の主張は一顧だにされなかった。

県益より国益優先

 判決は国の主張をほぼ全面的に採用する内容だ。裁判で翁長知事は辺野古新基地により「将来にわたって米軍基地が固定化される」と指摘した。その上で「県知事としての公益性判断を尊重してほしい」と訴えたが、判決は県民の公益性よりも辺野古新基地建設による国益を優先する判断に偏った。

 「国と地方の関係は対等」と位置付けた1999年の地方自治法改正の流れにも逆行する判決と言わざるを得ない。

 上告審での訴訟継続とともに、翁長知事にはなお、「埋め立て承認撤回」や「埋め立て工事の変更申請の判断」「岩礁破砕許可の更新判断」などの法的権限が留保されている。

 IUCNの環境保全の勧告、米退役軍人が年次総会で辺野古新基地建設の中止を求める決議を行うなど、支援は海外にも広がっている。さらに国際世論を喚起することも今後の重要な方策だろう。

 翁長知事は今回の違法確認訴訟の陳述で「辺野古の問題は沖縄県だけでなく地方自治の根幹、民主主義の根幹にかかわる問題。全てが国の意思で決まるようになれば、地方自治は死に、日本の未来に禍根を残す」と訴えていた。

 上告審の最高裁が県益を代表する知事の主張に正当な判断を下すか、司法の責任が問われる。

◉ 沖縄タイムス 2016年09月18日

[辺野古判決と自治権]対等の精神ないがしろ

 名護市辺野古の新基地建設を巡り、国が翁長雄志知事を訴えた「不作為の違法確認訴訟」で福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)が言い渡した判決は、改正地方自治法の精神を生かさず、むしろ後退させたというほかない。

 判決では「国が説明する国防・外交の必要性について、具体的に不合理な点がない限り、県は尊重すべきだ」と言い切っている。国が辺野古に新基地を建設するといえば、県はその考えに従え、と言っているのに等しい。

 国防・外交は国の専管事項という考えだ。だが、地方公共団体には住民の生命や人権、生活を守る責務がある。地域の意思を無視して米軍基地が建設されれば、地方自治や民主主義の破壊である。

 1999年に地方自治法が改正され、国と地方公共団体は「上下・主従」から「対等・協力」の関係に転換した。他ならぬ多見谷裁判長が今年1月に双方に提示した和解勧告文で言及したことである。政府と県との間で互いに訴訟が相次ぎ、沖縄対日本政府の対立という構図は、改正地方自治法の精神にも反すると指摘していた。

 多見谷裁判長は「オールジャパンで最善の解決策を合意して、米国にも協力を求めるべきである」と本来あるべき姿にも言及していたが、判決は地方自治の精神をないがしろにするものだ。同じ裁判長とは思えぬ豹(ひょう)変(へん)ぶりである。

 判決は国地方係争処理委員会の存在意義を否定している。地方自治の観点から、国と地方の紛争を解決する第三者機関としての在り方を問い返す必要がある。

 民意についても判決は奇妙な論理を展開している。

 普天間飛行場の移設は基地負担の軽減につながるとした上で、辺野古新基地は「建設に反対する民意には沿わないとしても、普天間その他の基地負担の軽減を求める民意に反するとはいえない」との見方を示している。何が言いたいのだろうか。

 前提が間違っている。新基地が普天間の半分以下だから負担軽減とするが、新基地には強襲揚陸艦が接岸する岸壁やオスプレイなどに弾薬を積み込む「弾薬搭載エリア」が設置される。周辺基地と一体化した軍事要塞(ようさい)化である。

 前知事が辺野古埋め立てを承認して以来、名護市長選、知事選、衆院選の全4沖縄選挙区、参院選沖縄選挙区のすべてにおいて辺野古新基地反対の候補が勝利している。

 判決は選挙という民主的方法で示される民意を軽んじているとしかいいようがない。

 納得できないのは、埋め立てで米軍基地ができる可能性のある「40都道府県」の全知事が住民の総意として埋め立て承認を拒否した場合、地方公共団体が国の判断に優越することになりかねないと強調している点だ。

 地方自治の否定であり、なぜ沖縄なら許されるのか。判決も「構造的沖縄差別」を追認しているのである。

 20年前の代理署名訴訟と違い、改正地方自治法の精神を酌んだ判決が出るのでは、と期待する向きもあったが、一顧だにしなかった。

 

◉ 信濃毎日新聞 2016年09月17日

辺野古判決 誠実さ欠く政府の姿勢

 政府は司法判断をてこに、米軍普天間飛行場の辺野古移設を加速させるのではないか。懸念が募る。

 福岡高裁那覇支部が辺野古埋め立て承認を取り消した沖縄県の翁長雄志知事の対応は違法とした国の主張を認め、県側敗訴の判決を出した。

 辺野古での新基地建設を巡る初めての司法判断である。翁長氏は上告する方針を表明。法廷闘争は最高裁に舞台を移す。

 安倍晋三政権は沖縄県民に寄り添うと言いながら、「辺野古移設が唯一の解決策」との姿勢を崩さない。沖縄から見れば二枚舌を使っていると映るだろう。

 不誠実な姿勢こそが、問題を根深くしている。安倍政権は言葉通り、普天間問題も含め、基地負担の軽減を求める沖縄の声に正面から向き合わねばならない。

 訴訟で国側は市街地にある普天間の危険性を除くため、移設は必要と強調。取り消し処分によって「日米間で築いた信頼関係が崩れ、外交、防衛上の著しい不利益が生じる」と主張した。

 県側は辺野古移設は基地負担の固定化になると訴えた。「埋め立てを承認した前知事の判断は自然環境への悪影響を十分検証していない」とも反論している。

 判決は普天間の危険性や国際情勢などに言及した上で、「県外移転はできない」とする国の判断は尊重するべきだとした。

 なぜ、このような展開になったのか。辺野古移設を巡っては訴訟合戦に発展していた。3月に双方がいったん訴訟を取り下げ、訴訟を一本化し、解決に向けて協議することなどで和解している。

 総務省の第三者機関である国地方係争処理委員会も、真摯(しんし)な協議をして納得できる結果を導く努力をすることを求めた。

 しかし、腰を落ち着けた協議は実現しなかった。逆に和解条項を都合よく解釈し、政府は一方的に今回の訴訟を起こしている。沖縄との話し合いを軽んじ、移設工事の再開を急ぐ意図があることがはっきり見えた。

 今回の裁判は、地方自治のあり方を問うものでもあった。1999年成立の地方分権一括法で国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」に転換。なのに、現行の移設計画は地元の理解を得ないまま進められている。

 翁長氏は一連の訴訟で、憲法が定める地方自治の精神に反していることを訴えてきた。沖縄だけの問題ではないのだ。そんな問題意識を持って、今後の展開を注視する必要がある。

 

◉ 南日本新聞 2016年09月18日

[辺野古判決] 解決は遠のくばかりだ

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設を巡り、政府と沖縄県が争った訴訟で初めての司法判断が下された。

 翁長雄志知事が、名護市辺野古の沿岸部を埋め立てる承認を取り消し、その撤回に応じないのは違法である-。

 福岡高裁那覇支部は、国の主張に全面的に軍配を上げ、沖縄県の訴えを退けた。

 判決は、普天間の危険を取り除くには辺野古に新基地を建設する以外にないと断じている。

 基地負担の固定化につながるとして「県外移設」を求める沖縄県がこれに反発するのは当然だ。

 沖縄県は上告するとみられる。知事はたとえ最高裁で敗訴しても、あらゆる権限を行使して移設阻止へ徹底抗戦する構えだ。

 移設をあくまで強行する国と、反対する県との対立の構図は一層深まり、辺野古移設問題の解決は遠のくばかりだ。

 日米両政府が返還に合意してから20年。解決には、政府がいったん埋め立てを取りやめるとともに、普天間基地の危険性除去の手だてを米政府と一緒になって追い求めることが重要だ。

 審理対象は、取り消し処分の前提になる2013年の仲井真弘多前知事の埋め立て承認に違法性があるかどうかだった。

 判決は、駐留する米海兵隊の運用面や世界情勢から「県外移転はできない」とする国の判断は尊重すべきだとした。

 さらに埋め立て承認時の環境保全の審査も十分とし、「前知事の承認に裁量権の逸脱はない」と判断し、取り消した翁長知事の処分の方を違法と結論付けた。

 判決での民意の取り上げ方も、はなはだ疑問である。

 普天間の移転は沖縄県の基地負担軽減に資するもので、新施設に反対する民意に沿わないとしても、負担軽減を求める民意に反するとは言えない、としている点だ。

 負担軽減を基地の新設を伴わない形で実現するのが沖縄の民意ではないのか。

 14年の知事選で、翁長氏は「辺野古移設反対」を公約に掲げて前知事を破った。国はその翁長氏に公約をほごにしろと迫っているに等しい。

 これは民主主義の前提である選挙を無視した振る舞いだ。

 辺野古移設を強行すれば反発を一層強め、沖縄の基地に支えられている日米安全保障体制そのものを揺るがすことにつながろう。

 政府は日米安保が重要と言うなら、移設案を見直すべきだ。膠着(こうちゃく)状態を打開するため、沖縄県と真摯(しんし)に協議する必要がある。

 

◉ 愛媛新聞 2016年09月17日

辺野古訴訟で判決 誠実な協議しか真の解決はない

 知事の対応は「違法」―。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡る訴訟で、福岡高裁那覇支部は昨日、前知事による辺野古の埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事の処分を違法と判断。県側敗訴の判決を言い渡した。

 在日米軍専用施設の74%が集中する沖縄に、もうこれ以上基地は要らない。そんな切実な民意を一顧だにせず、「辺野古が唯一の解決策」と一つ覚えに繰り返して問答無用で基地建設を強行しようとする国の姿勢と、それを追認するように「普天間の危険を除去するには辺野古以外にない」と指摘した司法に、強い失望と憤りを禁じ得ない。

 審理自体、弁論2回のスピード結審。「全てが国の意向で決められるようになれば、地方自治は死ぬ」「県民の民意を無視し、過重な基地負担を固定化し続けようとしている」との翁長氏の訴え(第1回口頭弁論)に耳を貸す気配はなかった。

 判決では双方の隔たりは埋まらず、県が上告して司法決着の場は最高裁に移されよう。だがその間も、国は沖縄に多大な犠牲を強いてきた歴史を理解し、誠実に話し合いを重ねなければどこまでいっても平行線。真の解決には決して至らないことを肝に銘じねばなるまい。

 翁長氏が埋め立て承認を取り消したのは、昨年10月。国と県の泥沼の訴訟合戦の末、今年3月に移設工事を中断した上で協議を進める条件で、和解が成立した。国地方係争処理委員会も「真摯(しんし)な協議」を促したが、話し合いは実質ゼロ。国は7月、参院選が終わるや再提訴した。沖縄側は引き続き徹底抗戦の構えで、結局は振り出しに戻っただけというほかはない。

 まずは国が、頑迷な姿勢を改め、普天間と辺野古を切り離して打開策を考えるべきだ。返還の合意から20年放置されてきた「普天間の危険除去」は喫緊の課題だが、「県内から県内」では沖縄の負担軽減には全くならない。撤去や縮小、県外・国外移設など、あらゆる可能性を探るそぶりさえ見せず、自国民たる沖縄県民の意思と人権を無視して抑え込む。そんな暴挙は、およそ政治や民主主義、地方分権の名には値しない。

 国が県を訴え、強硬な本音を隠そうともせず「攻撃」する。そんな信じられない事態が、参院選を境に露骨に進む。米軍専用施設「北部訓練場」の工事強行。沖縄振興予算を基地返還と関連付ける「リンク」論の公言と減額。そして辺野古訴訟…。

 7月の全国知事会で、翁長氏は基地問題を「わがこととして真剣に考えてほしい」と呼び掛けたが、積極的に呼応する意見表明は埼玉や滋賀など少数にとどまった。しかし、全国の地方や国民にとって、決して人ごとではない。安全保障は誰のためにあるのか。日本が初めて、自ら沖縄に恒久的基地を建設することを黙認していいのか。判決を機に、一人一人が考えねばならない。わがこととして。

 

◉ 福井新聞(論説) 2016年09月17日

辺野古訴訟判決 もっと沖縄直視すべきだ

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設問題で、前知事が埋め立てを承認したことに対し、承認を取り消した翁長雄志(おながたけし)知事の処分は違法かどうか。国が訴えた処分の違法性を巡る不作為の違法確認訴訟で、福岡高裁那覇支部は「普天間の危険を除去するには辺野古以外にない」として、国側全面勝訴の判決を言い渡した。

 国と県による泥沼の争いは訴訟合戦になっている。いわば国家権力と地方自治の在り方を巡る問題だが、司法判断が示されたのは初めてである。「埋め立て承認時の環境保全の審査も十分」として、知事の対応を「違法」と判断した。

 知事は上告する方針を表明。早ければ年度内にも最高裁で決着する見通しだ。

 「辺野古移設が唯一の解決策」との立場を堅持する政府に対し、県側は「沖縄への基地負担の固定化を招く」と主張。県外移設を公約に掲げる知事は、判決が確定しても「あらゆる方策で移設を阻止する」としており、別の対抗手段を講じ徹底抗戦の構えだ。

 その背景にあるのは先の大戦末期、沖縄が日米決戦による惨劇の場となり、その後も米軍が「占領」し続ける不条理である。国内の在日米軍専用施設全体の約74%が集中する。県民にとって「世界一危険」とされる普天間飛行場の早期返還も、辺野古移設反対も当然の論理なのであろう。

 基地の沖縄は米兵らによる事件や事故が絶えない。日本側から不均衡な日米地位協定の抜本改定を求める動きは全くない。民意を無視する傲慢(ごうまん)とも思える国の姿勢と合わせ、「沖縄は日米安保体制のスケープゴート」と断じる識者もいる。

 知事は意見陳述の際「すべてが国の意向で決められるようになれば地方自治は死ぬ」と訴えた。対する政府主張は辺野古埋め立ての必要性を強調した上で「(取消処分により)1996年の普天間返還合意以来、日米間で築いた信頼関係が崩れ外交、防衛上の不利益が生じる」というものだ。

 県民目線に立てば、日米同盟は沖縄を「踏み台」にして成り立ち、日本の「捨て石」ということになる。

 多見谷寿郎裁判長は、米海兵隊の運用面や世界情勢から「県外移転はできない」とする国の判断は尊重すべきとした。外交や防衛は基本的に国の所管事項と明示したが、あまりにも県民実態や感情を理解しない国追従の判断ではないか。裁判長は訴訟と並行して進める予定の「協議」で打開策が見つかる可能性まで否定した。知事が「三権分立という意味で禍根を残す」と言い放ったのは当然だ。

 2000年4月施行の地方分権一括法による地方自治法改正で、国と自治体は「上下・主従関係」から「対等・協力関係」になったはずだ。協調の精神で問題解決に向けて努力するなら、埋め立てをいったん凍結し、普天間の運用を見直すべきだ。海外分散を加速させる手だてもある。返還合意から20年。本当に在沖海兵隊は「抑止力」なのか。冷静に見つめ直す時だ。

 

◉ 北海道新聞 2016年09月17日

「辺野古」国勝訴 沖縄の声は変わるまい

 沖縄が戦後負ってきた重い基地負担への配慮を欠く判決だ。

 米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡る訴訟で福岡高裁那覇支部はきのう、埋め立て承認を取り消した翁長雄志(おながたけし)知事の対応を違法とする国側勝訴の判決を言い渡した。

 知事は上告する方針を示した。知事は「確定判決には従う」としているものの、他のあらゆる手段を尽くして辺野古移設を阻止する姿勢は揺らいでいない。

 政府は勝訴が確定すれば埋め立て工事を再開するとみられるが、それでは混迷は深まるばかりだ。判決を盾に強硬姿勢を取っても問題の解決に資することはない。県と誠実に協議するべきだ。

 判決は「普天間の危険を除去するには辺野古以外にない」と断定、国の主張を全面的に認めた。

 知事は「沖縄県民の気持ちを踏みにじる、あまりにも国に偏った判断だ」と批判し、「(裁判所が)政府の追認機関であることが明らかになり、大変失望している」と強い不満を表明した。

 当然ではないか。そもそも国と県が3月に受け入れた同じ福岡高裁那覇支部の和解勧告には、国と地方を「対等・協力の関係」とした1999年の地方自治法改正に触れた上で、こう書いてある。

 「本来あるべき姿としては、沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意して、米国に協力を求めるべきである」

 沖縄に寄り添い、辺野古に代わる選択肢に全力を挙げて知恵を絞れとも読める。それがなぜ、国の言い分だけに軍配を上げたのか。

 判決は「国防・外交は自治体の所管ではなく、不合理と認められない限り尊重すべきだ」とした。そこに、地方自治の精神を尊重する姿勢は感じられない。

 菅義偉官房長官は判決を受け「訴訟と同時に話し合いも並行して進める和解の趣旨に沿って誠実に対応していく」と述べた。

 和解は確かに、双方の訴訟を一本化する手続きも定めていた。

 だが、その前提だった国地方係争処理委員会の結論は、国と県の「真摯(しんし)な協議」を求めた。それを無視して提訴した国の対応が問われないのも納得しかねる。

 司法判断は本来尊重されるべきだが、国の政策にお墨付きを与えるだけの判決に従えと言われても沖縄の怒りは増幅するだけだ。

 年度内にも出される見通しの最高裁判決には、沖縄の基地問題の歴史と背景、国の安全保障と地方自治のあり方について深い考察を加えることを望みたい。

 

◉ 中国新聞 2016年09月17日

〇 辺野古訴訟で県敗訴 協議で解決策見いだせ

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の変換を巡り、国と沖縄県が争った訴訟で初めてとなる司法判断が下された。

 福岡高裁那覇支那は普天間の危険性の除去には移設先の名護市辺野古沖の埋め立て以外にないとして、翁長雄志(おながたけし)知事が埋め立て承認の取り消し処分を撒回しないのは違法と断じた.

 だが釈然としない.これで対立の構図が解消に向かうとは考えにくいからだ。

 政府と沖縄にいったん矛を収めさせた2月の和解勧告では、同じ裁判長がこう指摘していたはずである。「延々と法廷闘争が続く」可能性に触れて、国が「勝ち綬ける保証はない」と.そして「オールジャパンで最善の解決策を合意し、米国に協力を求めるべきである」と国の方に譲歩を求めていた。

 「辺野古移設が唯一の解決策」というこだわりを国の側が捨てなければ、決着はない.こにいったのか。そうも読み取れた勧告は一体こにいったのか。きのうの判決は明らかに国の言い分に沿っている。

 すぐ上告することを表明した翁長知事は襄切られた思いなのだろう。「あまりにも偏った判断」と批判し、裁判所についても「政所の追認機関」と強くなじった。

 むろん最高裁に進んでも、年内に想定される最終的な司法判断で沖縄側の意向が通る保証はない。そこで何より問題となるのは和解条項である。双方とも確定判決に従うという確約を、どう考えるか.

 仮にこのまま県敗訴が確定した場合、政府は辺野古移設に全面釣に協力することを当然、求めてこよう.

 しかし知事の考え方は違う。今回の訴訟は、あくまで行政手続きの—つとしての埋め立て承認取り消しの是非に関するものであり、辺野古移設自体を容認したことにはならない、という論理に立つからである。

 国が埋め立て工事を再開する場合、想定される岩礁破砕許可の更新申請にしても、工法や設計の変更申請にしても許認可権限は県にある。

 工事を阻むため県側はあらゆる権限を使い、徹底抗戦を続ける構えを見せる。

 このままなら両者の対立が延々と続くことになる。それが好ましいはずはない.

 やはり優先すぺきは沖縄の意思である。強制接収で奪われた土地に造られた普天間飛行場の無条件返還を求めるのは当然という思いが県民の間に根強い。普天間の県外移設を望む民意は自民党の現職閣僚を落選させた7月の参院選でも明らかだ。

 いま一度「和解」の原点に立ち返るべきではないか。

 円満解決に至る道は双方の協議をもって切り開く以外にない。稲田朋美防衛相も判決後、協雄を継続する考えを述べている。

 これまでの国の対応では地元の反発を招くだけだ。

 沖縄の基地問題はもうーつ重大な局面にある。米軍専用施設「北部訓練場」の部分返還に向けたヘリコプター離着陸帯(ヘリバッド)の建設である。安全性に疑問が残る垂直離着陸輸送機オスプレイ配備によって、かえって基地の強化につながるとして、激しい抗議行動が続く。政府は自衛隊まで工事に動員して強引に押し切る構えだ。

 信頼関係を築き直す努力をしつつ、解決策を見いだす必要がある。辺野古以外の選択肢も含めて知恵を紋るべきである。

 

佐賀新聞(論説) 2016年09月17日

辺野古訴訟 これで民意に沿うだろうか

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡る訴訟で、初めての司法判断が示された。埋め立て承認を取り消した沖縄県の翁長雄志知事の対応を「違法」と認めて撤回するよう促した。

 判決で福岡高裁那覇支部は、仲井真弘多(ひろかず)前知事の承認手続きに問題はない上、普天間基地の辺野古移転は「埋め立てにより、県全体では負担が軽減される」として、民意に沿うと評価した。

 基地の県外移設を求める沖縄と、辺野古移設を唯一の解決策とする国の主張は、これまでも真っ向からぶつかってきた。三つの訴訟が乱立する泥沼を見かねて福岡高裁が和解を促し、今年3月には、話し合いによる解決で双方がいったんは歩み寄ったはずだった。

 ところが、国は和解直後に翁長知事を訴え、事態は再び法廷闘争へと逆戻りしてしまった。

 この間、沖縄の民意ははっきりと示されてきた。先の参院選では、辺野古移設に反対する「オール沖縄」勢力の候補者が現職の沖縄担当相を破り、非改選の1議席を合わせた2議席と、衆院小選挙区の4議席すべてをオール沖縄が独占する形になった。

 日本にある米軍基地の74%が沖縄に集中し、米軍関係者による凶悪犯罪が後を絶たない。元海兵隊員による女性暴行殺害事件が起き、6月の県民大会には6万5千人(主催者発表)が参加して「これは米軍基地あるがゆえの事件であり、断じて許されるものではない」と決議した。

 基地ゆえの犯罪をなくすために、沖縄から基地をなくしてほしい-。それが沖縄の民意だろう。今回の判決で福岡高裁は「沖縄の民意を考慮しても、承認の要件を欠く点はない」としていたが、本当だろうか。

 今回の訴訟では、国と地方の在り方も考えさせられた。

 民意を代表する知事が国から訴えられ、しかも辺野古移転が遅れれば地域振興予算を減らすとまで圧力を受ける-。そうした強硬な国の姿勢には、地方自治を尊重しようという意思はなかった。

 国と地方の関係は、地方分権改革を経て、対等へと生まれ変わったはずではなかったか。翁長知事は「すべてが国の意向で決められれば、地方自治は死ぬ」と主張していたが、まったく同感だ。

 一方で、国が主張するように日米同盟は日本の安全保障の要であり、その重要性は増すばかりである。海洋進出を目指す中国の台頭や、核実験と弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の脅威など、さらに緊迫しているのは間違いない。

 だが、日米もまた、対等なパートナーのはずだ。腫れ物に触るように「対米追従」に終始するのではなく、沖縄の民意を踏まえて、辺野古移転に代わる策を米側と協議すべきではないか。

 米軍関係者による犯罪が一向になくならない背景として、米軍関係者を優遇する「日米地位協定」の問題が指摘されているが、女性暴行殺害事件が起きても、日本政府は運用の改善にとどめ、米側に改定を求めさえしなかった。

 東アジア情勢をにらんで抑止力を維持しつつ、沖縄の負担も軽減していく。国防か、民意かの二者択一ではなく、双方が成り立つ新たな道を探るべきではないか。

bottom of page